本研究部門では、Progranulinのがんマーカーとしての有用性を研究しています。
Progranulinはがん関連分子として着目されているタンパク質であり、がん細胞から分泌されていることに加えて、がん細胞の増殖を促進する働きがあることも報告されています。また、一部のがん患者では血中Progranulin濃度が上昇することが報告されていることから、Progranulinはがんに関わる重要な分子であると考えています。しかし、Progranulinががん細胞を増殖させる詳細なメカニズムや、がん患者で上昇している血中Progranulinがどのような症状と結びつくのかは明らかにされておらず、なぜ一部のがん患者でのみ血中Progranulin濃度の上昇が認められるのかもわかっていません。
そこで、私達はがん細胞におけるProgranulinの機能を研究することによって、がんマーカーとしての臨床的意義を明らかにするとともに、新たな治療法の手がかりとならないか検討しています。また、臨床検体の解析を並行して実施することで、得られた研究結果を一日でも早く実際の治療現場に役立てることを目指しています。
トリプトファン代謝経路の精神疾患マーカーとしての有用性を評価しています。
様々な精神疾患がありますが、その中でも問題となっているのはうつ病です。「憂うつだ」「気分が落ち込んでいる」などと表現される症状を抑うつ気分といい、抑うつ気分が長期間続く状態をうつ病と呼びます。
うつ病は遺伝的な要因と、身体疾患やストレスなどの環境的な要因が複雑に絡み合って発症します。うつ病発症後、不調に気づいたとしても「自分がダメなせいで、気持ちが落ち込んでいるだけ(気の持ちようでなんとかなる)」「からだの症状(疲労感・不眠)があるから、からだの病気に違いない」「精神科病院に通院すると変な目でみられるから、かかりたくない」など、否定的な考え方から治療が遅れる例が多くあります。また、うつ病自体が臨床検査などで明確に診断できる疾患ではないことも、早期の発見、治療を困難にしている問題のひとつです。
近年、トリプトファン代謝経路の一部であるセロトニン経路およびキヌレニン経路と、うつ病発症の関連性が示唆されています。また、我々はセロトニン量の調節に関わるセロトニントランスポーターの機能が、うつ病モデルマウスでは変化していることを明らかにしました。また、バイオバンク事業によって集積される情報も利用して、うつ病を明確に診断するための臨床検査法の確立と、治療を結びつけるセラノティクスの確立を目指しています。